よく話題に上るな。
 呆れるほどに長い話を、いつものように聞き流していた途中で気が付いた。
 飽いた自慢話の合間に口をつく一人の名前。そればかりが耳に残っていたようで、最近彼を見かけた時はつい目で追ってしまうのだが、成程この為だったのか。
 と相変わらず話の九割九分を聞き流しながら、喜八郎は合点がいった事に満足していた。

「……というわけでこの私の活躍がなければ彼らは今頃補習授業に泣く羽目に……おい、聞いてるのか喜八郎」
「んー」
「ならば、相槌くらい打てばいいものを。これではお前に話すのも壁に向かって話すのも変わらないではないか」

 相槌を打つ間も与えない癖に勝手ばかり言う男だ。同じ事ならば、是非とも壁を相手に語って頂きたいところである。
 尚もぐちぐち言う同室者をやり過ごして押入れを開けた。彼の長話にまともに付き合っていたら深い夜だってすぐに明けてしまう。
 布団を下ろして敷いている間も彼はお構いなしで、その内に、大体お前は〜だの、その態度が気に食わないだのと、段々不当な方へ向かい始めていた。まったく面倒な、との本音はおそらく顔に出ているだろうが、彼は何故だか気が付かない。
 自慢話に酔いしれている内はまだいいが、文句を受けるとなると非常に鬱陶しいので、とりあえず話を逸らしてしまおうと口を開いた。

「最近、タカ丸さんの話が多いね」
「……ん? そうだったか」

 唐突で無理やりな話題転換だったが、思いのほか上手くいった。
 話の途中で黙りこみ、少し考える素振りをして、そうかもしれないと頷いた。

「タカ丸さんはあれで意外と勉強熱心だ。右も左も分からぬ彼を放っておくこともできないし、宿題を見たり、時には雑談をすることもある。だから、彼に関する話題が増えてしまったのかもしれないな」

 それに何しろ、彼が学園に編入したての頃は世話役を仰せつかっていたのだから、と得意げに胸を張る。
 仰せつかったというよりも強引に自分の役目にしてしまったのでは。滝夜叉丸ならやりかねないが……如何せん、興味の薄い事柄だったから、確かなことは分からない。
 ともあれ、話題の転換で多少は我に返ったらしかった。隣で布団を敷きながら、若干落ち着いた声をかけてくる。

「にしてもお前、本当に私の話を聞いていたのだな。正直疑っていたんだが」
「うん、まあ」

 耳に引っ掛けているのは彼の名前だけだなんて言ってやる必要はないので、適当に流しておく。滝夜叉丸は満足げに、深く頷きながら、喜八郎もやっと私の話の素晴らしさに……等とごちゃごちゃ語り始めた。平穏とは短いものだ。
 今度こそ朝まで続きそうだったので、耳に入れる振りをしながら布団にもぐり目を閉じた。
 もちろん相槌など一つだって打つつもりはない。