「君、誰だったっけ」
眠りから覚めたばかりの、微妙に定まらない視線を寄せられて。第一声がそれだ。ちょっと待て最初に自己紹介しただろうが! という言葉は飲み込んで、「四年い組の平滝夜叉丸です。お忘れなく」と自己紹介しなおした。
タカ丸はまだとろんとした瞳でこちらに視線を向けている。
今日一日色々なことがありすぎて、事が終わった後から今まで、タカ丸は死んだように眠っていた。
無理はない。銃撃に逃げ回り、塹壕に落ち、あらゆるところを駆け回り。体力のないものならば参るのは当然だ。
それはいい。それはいいのだが、滝夜叉丸が納得いかないのはタカ丸が自分の名前を覚えていないことだった。
人を盾にまでしておいて、名前を覚えていないとは。性質の悪い冗談か何かなのか。
そう思ったが、ここで怒るわけにはいかない。
相手は編入して間もない。
四年生代表として、冷静に、余裕を持って対応しなければ。
「ええーっと、ここは?」
「あなたの部屋です。事が終わった後、泥のように眠ってしまったので、この私がわざわざ背負ってきてやったのです」
「あー、あれから記憶がないと思ったら、そういうことだったのかあ」
なんとも暢気そうに笑って、タカ丸は大きく伸びをした。ついでに欠伸。
先ほどまで狙われていた人間とは思えない態度だ。
肝が据わっているのか、ただ単に危機感が足りてないのか。
……滝夜叉丸が見るに、恐らくは後者だ。
「ところでタカ丸さん、起きて早々何ですが、もうそろそろ夕食の時間ですよ」
「えっ、嘘っ!? もうそんな時間? だったら早く食堂行かなくちゃ」
途端、タカ丸は慌てたように眠そうだった瞳をこじ開けた。
慌てるべきところが限りなくずれているような気がするが、それには滝夜叉丸も賛成だった。
空腹は数刻前から感じている。
それは多分、他の忍たまたちも同じだろう。狭い食堂が混んでしまうのも時間の問題だ。
タカ丸が布団から飛び出したのを機に、滝夜叉丸も腰を上げた。
と、障子に手をかけたタカ丸が不意に動作を止めて、振り向く。
「あのさ、もしかして、眠ってる間ずーっとおれの傍にいたの?」
何かと思えば。
滝夜叉丸はこくりと頷いた。
「騒ぎが一段落したとはいえ、もしもということもありますからね。無防備なタカ丸さん一人放っておいて危ないことがあったらいけませんし」
学園に侵入してきたドクアジロガサ忍者は、とある城の任務を受けてタカ丸を狙ってきた。
現時点でその「とある城」というのがどこなのかということは明らかにされていない。黒幕が分かっていない以上、この事件は完全に終わったわけではないのだ。
学園も警備を強固しているし、今日のうちにまた狙われるというのは考えにくい。が、絶対安心とは言い難いし、護衛すると言ったからには途中で放棄するわけにはいかない。
毎日付きっきりというわけにはいかないが、少なくとも今日一日、用心するに越したことはない。
朗々とその旨を伝えると、タカ丸はそっか、とすっかり眠気の取れた顔で笑った。
「ありがとう、滝夜叉丸」
当然です、と胸を張りながら返事をして。
そこで滝夜叉丸は、初めて名前を呼ばれたことに気がついた。
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結局タカ丸さん滝の名前呼ばなかったなーと思ってこんな妄想。
というかそもそもまともに会話をしていなかったような…(滝が一方的に喋っているだけで)。
いやいやそれよりタカ丸さんはちゃんと滝を人間として認識しているのだろうか…盾にしちゃってたしなあー…
しかしそれはそれで面白いなあと思う自分がいたりいなかったりしています。
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