買ったばかりの簪を横一列に並べる。煌びやかなそれをタカ丸は真剣な目つきでじっと見つめた。時折、並べられた簪の一つを手にとって四方八方から眺めてみる。四つ目の簪を手に取ったとほぼ同時に、障子がかたりと開けられた。

「タカ丸さん勉強を教えに――って、一体何してるんですか」
「んー、今度女装の授業があるって聞いたから、ちょっとそれ用の簪を選んで……ってうわ、滝夜叉丸いつからそこに」
「今来たばかりですけど」

 もう少し気配を読むことを覚えたほうが良いですよ、と滝夜叉丸が呟く。そうだねと頷いて、それから丁度良かったとタカ丸は入り口で立ったままの滝夜叉丸を傍に呼び寄せた。

「この簪とこっちの簪、どっちの方がいいと思う?」

 タカ丸は手に持っていた簪と、一番右端の簪を示して見せた。滝夜叉丸は気乗りのしない様子に見えたが、タカ丸が簪を手渡すと右端の簪と見比べ始める。そして思ったよりも時間をかけずに、こちらです、と手に持っていた簪をタカ丸に返した。

「こちらの方がタカ丸さんの髪色には合っていると思います。」
「そうかなあ。じゃあそうしよう」

 あっさりと決めると、滝夜叉丸は何故か目を白黒させた。意外とでも言いたげな顔である。

「何、どうしたの」
「ああ……いえ、あまりにもあっさりと決められたので」
「だってこれが良いっていったから」

 比較的他の簪よりも派手な色のそれを手の中でころころと転がす。
 滝夜叉丸はしばしの間その様子を見つめていたが、やがて納得いったような顔で、そうですよねと口を開いた。

「今まで私の意見を聞いて品を選んだ四年連中は滅多にいませんでしたが、それは私のずば抜けたセンスの良さに誰一人としてついていけなかっただけなのでしょう。喜八郎なんかわざわざ意見を求めてくるくせに、こちらの方が良いと選んでやったら『じゃあこっちの方でいいや』と必ず違うものを買ってるし。その点タカ丸さんはよく分かってらっしゃる!」
「そ、そう?」
「そうです!」

 興奮したように喋り続ける滝夜叉丸の勢いに飲まれて、タカ丸は遠慮がちに声をあげた。そういう事情があるとは知らなかった。今まで意見を聞いてもらえなかったとしたら、そりゃあ目を白黒もさせる。

「センスが悪いと心無い連中に散々言われもしましたがここにきて遂に私の……って何してるんです」

 一列に並べていた簪を集めて頭を捻っていたタカ丸に気づいたのか、滝夜叉丸は途中で話を打ち切った。

「残った簪をどうしようかなあって」
「ああ。それにしても随分ありますね」
「どれもこれも綺麗でさあー、迷ったから気に入ったの全部買って後でじっくり選ぼうかと。でも買いすぎちゃったかな」

 赤に青、様々な色の簪が床を彩っている。捨てるのはもったいないし、仕舞いっぱなしというのも可哀想だ。かといって簪など男の自分は普段使わないし。
 しばし悩んだ後、ああそうだと滝夜叉丸に視線をやった。

「滝夜叉丸のところ、女装の授業ってあるよね?」
「時々ですけど」
「それなら良かった。これ、残ったの全部あげるよ」
「は? 全部?」

 目を見開いて、滝夜叉丸が尋ねる。

「どうせおれ女装のとき以外使わないし、特別あげる人もいないし。滝夜叉丸使ってよ」
「そう言われても。私も簪なんて滅多に使いませんし」

「じゃあ一本でいいから」

「まあ一本なら……」

 困ったように言って、滝夜叉丸は赤い玉簪を選んだ。どちらにしようかと散々悩んだあの、右端にあった簪だ。色は少々派手だが、夕焼けのよりも鮮やかな紅が美しく気に入った品だった。

「滝夜叉丸とは好みが合うみたいだね」
「そのようですね」

 滝夜叉丸が頷いた。嬉しそうにも見える表情は、好みを同じとする者に出逢えたからだろうか。
 タカ丸は残った簪たちを見つめた。二人に選ばれなかった簪は煌びやかだというのに寂しそうに床を転がっている。

 ――おれがちゃんと一つに決めていれば、今頃は他の、もっと大事にしてくれる娘さんが買っていったかもしれないのになあ。

 けれど買ってしまったものは仕方が無い。唯一できるのは、これから無駄に買ったりしないように気をつけるだけだ。
 それを防ぐ丁度よい方法も思いついたことだし。

「滝夜叉丸、今度何か買うときはさ、暇だったら買い物についてきてくれない? そしたらもったいないことしなくて済むかもしれないし」

 簪を指し示してみると、滝夜叉丸は一瞬呆気にとられたような顔をして、直後「そういうことなら」と力強く頷いた。タカ丸はほっと口元を緩めた。

 ころりと転がった色とりどりの簪たちのように、買ったまま使われずに片隅に追いやられる物は少なくなるかもしれなかった。










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起承転結とか考えてませんごめんなさい!
ってそんな反省はともかく。タカ丸さんと滝は服装とか小物とかのセンスが似たりよったりだったらいいなあ。二人とも派手好きそう。
…あ、書き終わってから気づいたのですが、今回滝が苛々してない!