6は
澄み渡った秋の空にするすると白い煙が上がってゆく。
その筋を何となく目で追っていると、笑顔の保健委員長に名を呼ばれた。
彼の傍らには落ち葉のかたまりと、水を張った桶。
「留三郎、丁度良かった。はいこれ。美味しいよ」
手渡されたのは、少しばかりおかしな焼き色をした芋だった。
「少し焦がしちゃったけど、食べられないこともないと思うから」
「前の台詞と軽く矛盾してないか」
「まあまあ」
適当なことを言いながら、伊作は己の芋を頬張った。
表面の焼き色は確かに少々黒っぽいが、中身はそれ程でもないようで、留三郎も芋を二つに割ってみる。
一口齧ると結構いける味だ。あっという間に食べ終わってしまった。
先に食べ終わった伊作は桶の水で手を洗っている。留三郎は軽く手を払い、それで済ました。
「ところでどうしたんだ、この芋」
「後輩のね、乱太郎に貰った」
「ああ、あの眼鏡の一年」
「正確に言うと、お前のとこのしんべヱからだけどね。実家からたくさん送られてきたから、先輩にもおすそ分けって言ってたな」
「ほう」
「付け加えとくとさ、さっき渡したのは留三郎の分。ついでだから一緒に貰っといたんだ。だから心配しなくても大丈夫」
「ちょっと待て。おれが一体何を心配してるって」
「先輩思いの後輩で幸せだってことさ」
笑い声と共に言われた言葉に、背中あたりが妙にこそばゆくなった。
一寸黙って、留三郎は呟くように言う。
「それはお互い様だろう」
火のついた落ち葉のかたまりに、ばしゃりと水がかかった。
吸い込まれるようにして消えた煙の先は、青々と澄み渡っている。
僅かな焦げ臭さが、名残のように鼻をついた。
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タカ滝
傾きかけた茜の空に、白い煙が延々と昇っている。
しゃがみこんで何をしているかと思えば、タカ丸は長屋の庭の隅で芋を焼いているのだった。
焼けたばかりの芋を熱い熱いと言いながら、両の手で転がす。
その芋はどうしたのかと問えば、ふにゃりとした笑顔が返ってきた。
「さっき一年生に貰ったんだよ」
「一年に?」
「は組の三人。お世話になっている先輩に配ってるんだって」
でもおれどっちかっていうと、お世話してるっていうよりお世話になってるって感じだよね、と頭を掻く。
暢気なタカ丸の言葉に、滝夜叉丸は首を捻った。
「変だな。私は今日、三人の姿を一度も見ていないというのに」
世話になっている先輩の中に己も含まれているはずだと、当然の如く思い込んでいる滝夜叉丸であるから、三人が現れないのが不可思議に思えて仕方がない。
すれ違ってしまったのだろうか。だとしたら何て間の悪い。
そうやって考え込んでいると、大きな芋がぱくりと割られた。
いびつに別たれた芋の一方を差し出される。
「折角だから一緒に食べようか」
「しかしそれはタカ丸さんのでしょう」
「お世話になってるからね、滝夜叉丸には」
半分で悪いけど、と笑いながら言われる。
そういうことならば受け取るのもやぶさかでない。
礼を言いつつ、滝夜叉丸は半分の芋に手を伸ばした。
手に納まった鮮やかな黄金色は秋を思わせる。