きり乱
銭を愛していることは知っていた。
長い付き合いである。夢中になるのならまだしも、命よりも銭を優先するその姿勢は、呆れを通り越してもやは尊敬の念すら浮かぶ。
彼が生きるために銭を求めるのは分かるし、それ故に執着するのも分かる。乱太郎も決して裕福な方ではないし。しかしそれでは本末転倒ではないだろうか。そう思うのだが口に出しはしない。
理由は一つ、言っても無駄だからだ。
(それにしてもさ、きり丸)
命より大切なものなんかない、と乱太郎は思うのだ。幼い頃からそのことを両親から口を酸っぱくして言われていた。
忍びだからといって命を粗末にするものではない。
自分の体は大切に、命はそれ以上に。
きり丸はそこのところをちゃんと分かっているのだろうか……と、時折疑問を覚えるときがある。最近は特に顕著だ。毎夜毎夜、傷を作ってくる。大抵が掠り傷だったり擦り傷だったりするのだが、それでも乱太郎は心配でならない。
(何のバイトだと問いただしても答えないんだから、あいつも意固地というか何というか)
土井先生が止めている様子はないから、命に関わるまでのバイトではないのだろうと推測できるが、それでも思わずにはいられないのだ。
(過保護なのかなあ)
長年保健委員をやっていると、どうにもこうにも心配性になってしまう。
少しの傷でも膿んだらどうしよう、何てことばかり考えてしまうのだ。乱太郎は自嘲気味にため息を吐いた。そして、放課後勇んで出かけていったきり丸の背中を思い出す。
今夜も傷を作ってくるのかな、あいつは。
少しはこっちの身にもなって欲しいよと思いつつ、乱太郎は今日も身勝手な友人のために傷薬を用意するのだった。
タカ滝
滝夜叉丸は髪がいいね。艶やかな黒さに加えて、さらさらで絹糸みたいだし。
でもあれは一朝一夕の努力じゃないよ。一日たりとも努力を怠らず手入れをしているんだろうな。櫛を通し、洗うときにも精一杯気を遣って。
彼の努力しているところ、おれ好きだな。
「そんな分かりきったこと。私は努力する天才なんですから。ほーっほっほっほっほ!」
「うん。凄いなあ、本当」
「成績優秀な私ですが、こういう地道な努力が実を結んで……」
「この髪の艶なんてさあ」
「昨日の実技なんか私の作った罠が高く評価され」
「結うのが楽しみなんだよねー」
「……あれだけ会話がかみ合わない人たちっていうのも珍しいよね。人の話ちゃんと聞いてるのかな」
「綾部、お前がそれをいうか?」
「まあ確かに滝夜叉丸の髪は綺麗だと思うけど。三木ヱ門もそう思わない?」
「……話聞いてないだろ」
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小仙
甘いものは好きではない。
むしろどちらかというと辛いものの方が好ましい。
それなのにどうしたわけか。常々思っていたが、私は小平太のことになると無意識に甘くなってしまう。
これが文次郎辺りだったら宝禄火矢で二、三回位吹き飛ばしているところだ。けれども小平太にはどんな酷いことをされても簡単な罰で済ましてしまう。
その度に自分は小平太によって堕落していくのではないのだろうかと懸念を抱いてしまうほどだ。
こんなことではいけないのだろうとは思うのだが。
それでも私は、今日も彼に甘くしてしまうのだ。
「うわっ、仙蔵! 悪かった、悪かったからそれだけは止めてくれ!」
「何を言う。本来ならば吹き飛ばすところを、これだけで済ませているのだぞ。むしろ感謝すべきだ」
「吹き飛ばされた方がま……ぎゃああっ!」
委員会の帰り、自分の部屋で。
文次郎が見たのは、とても丹精に作られた学園長の生首の模型に埋もれた小平太と、何とも不気味な笑みを浮かべた仙蔵であった。
――鬼か。