人形師×人形
仮想大正時代




 広い、広大な屋敷に希代の人形師は住んでいた。
 沢山の人形に囲まれて、その人形師は制作に没頭していた。
 屋敷に住まうのは人形師だけではなく、十二〜三程の少年も住んでいた。
「…孫兵…」
「なんで仕事断った。だろう?」
 萌葱の着物姿の少年がじっと主を見つめる。
 紅の着物を纏う市松人形の化粧を施しながら、希代の人形師・伊賀崎孫兵は非難めいた視線で睨んでくる少年に苦笑した。
「裏家業なんてしなくても表の人形師としてだけで十分稼いでるからさ」
「でも…」
 少年が何か言おうとしたのを遮り、握っていたままの筆と人形を置き、少年に向き直る。
「別に籐内の存在意義がなくなるわけでもないだろう?」
 諭すように言うと、ますます少年・籐内は孫兵を睨みつける。しかも泣きそうになっている。
「………か…?」
「え?」
 掠れた小さな声が籐内の唇から漏れる。
「俺は、もういらないのか?」
 言われて、孫兵は自分の発言の馬鹿らしさ加減に舌打ちした。
 籐内は孫兵の祖父が作った人形だ。
 ただの人形ではない、帝都に巣くう妖怪や悪霊たちを祓い封印するために造られた呪術人形。市場に決して出ることはないが、その手の業界の中でも右に出るものはない。五指に入る代物と呼ばれているのが籐内だった。  魔を祓い続けたせいか、九十九神と化して、跡目を継いだ孫兵の側にあり、何くれと世話を焼いていた。
 孫兵自身も有能な傀儡回師だが、ここ数年裏家業は行っていない。
 籐内は人形だから血は流さない。
 壊れても修復する事は出来る。
 たが…
「もし、私がへまをして籐内を傷つけたら…それが怖いんだよ」
 抱きすくめた体は冷たい。
「…そんなこと言われたら…俺の存在意義がなくなる…」
 ぽつりとした籐内の呟きに孫兵は苦笑した。
「あるよ。お前の存在意義はちゃんと」
 同じように小さな声で囁く。
 私のそばにずっと居るのがお前の存在意義。
 外には出さずに胸の内で呟く言葉。

 ずっと昔、祖父に見せてもらった時から恋い焦がれていた美しい人形。
 例え、生身の女のように抱くことは叶わなくとも、久遠、美しきままで私の傍に居ておくれ――。











***********
黒田豆狸ちゃんから頂いた孫藤小説です!
人形師と人形…しかも大正パラレル…さすがツボをぐいぐいついてきよる…!
どことなく醸し出される色気ある雰囲気ににやにyもとい、くらくらします。無限の妄想が広がりそうな…顔が緩む*´`*

素敵な小説を本当に有難うございましたっ!!