するりと腹の辺りに手を回され引き寄せられて、文句を言う前に髪に顔を埋められた。ふわふわの髪の毛はそれでなくとも絡まりやすいというのに、そこのところ彼は分かっているのだろうか。聡明で中々に頭のいい彼のことだから分かっているのかもしれないが、それはそれで性質が悪いと言えなくもない。 「きり丸、暑苦しい。髪が絡まる」 本当に性質が悪い。 五年にもなれば、薄くて短かった猫毛も何とか結える程度に長くなっている。きり丸ときたらその結っている毛の中に埋もれているのだ。手入れが難しい髪を触られるのはあまりいい気がしないし、こんなところを人に見られるのも何だかなぁと思う。 まあわざわざわたしたちの部屋に入ってくる人なんて同室者のしんべヱくらいしかいないだろうけど。それにしても。 わたしは強引にきり丸を引き剥がして、ありったけ睨みつけた。 「何なんだよ、人の髪で」 自分の髪がどうなったら癒し要素になるのかがまったく理解できなくて、わたしは睨むのを忘れて首を傾げた。仮にきり丸の言うとおりだとしても、人の髪で勝手に癒されるなんてどういう了見なんだこいつは。 わたしの疑問に答えるかのように、きり丸はにんまり笑って口を開いた。 「もさもさしている髪っていいと思わない?」 嘆息すると、きり丸は勝手に髪を掴んだ。 けれどもそれは引っ張るような、強い感触ではなくて。何と言うか恐る恐る触るような、そんな危うさを感じさせた。 きり丸らしくなくて、わたしは彼の顔を眺めたけれど、いつも通りの笑顔を返されてしまった。にんまり、と人を喰っているような。 「いいよなー乱太郎の髪」 しばらく会話をしながら手の中でわたしの髪の毛をいじっていたきり丸だけれど、再び引き寄せてもさりと髪に顔を埋めた。 文句を言うのも馬鹿馬鹿しくなって、わたしは成すがままきり丸に髪の毛を貸す。これ、他人に見られたらどう言い訳しようかと考えながら。
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