※は組、六年設定です。
「随分たまってるねぇ、きり丸」 部屋に充満する何とも形容しがたい臭いに顔をしかめながら、乱太郎は一番近くにあった洗濯物を摘んだ。 赤子のおしめと思しきそれは他のどの物よりも汚れていて、異臭を放っていた。乱太郎は鼻をつまんで、部屋に溢れている服を拾っては洗濯籠へと詰め込む。たちまち籠の上が山盛りになった。 「うえー、この臭い!」 長屋の前の庭に水をいっぱい入れた大桶を置いて、洗濯板で一枚一枚丁寧に、それでいて手際よく洗っていく。 いつものことながら器用だなぁと感心していると、たった今洗っていたばかりの濡れた服の山を投げ渡された。慌てて受け取ってきり丸のほうを見ると、彼は目線を桶にやったまま真剣な顔で干してくれと頼んだ。 「どうしてわたしが」 きり丸の後ろにまわり、即席の物干し竿に服を干していく。すぐ乾くようちゃんと水気を落とし、皺を伸ばして丁寧に。これらのこと全てが、長年親友のバイトを手伝って身についたことだと思うと、何だか無性に情けないものを感じた。長期休暇のたびにつき合わされている、は組の教科担任よりははましだと思うけれど。 「乱太郎ときり丸、何やってるの?」 気持ちのよい快晴の中。くるくると働いているというのに一向に山は減らず、そんなことを延々と繰り返していると、不意に縁側から声がした。 乱太郎が振り返ると、そこに居たのは同じ組の伊助であった。図書室からの帰りなのか、何冊かの巻物を手に持ちながら呆れたような表情をしている彼に向かって、きり丸が機嫌よく呼ぶ。 「おう伊助。丁度良いところに」 猫なで声にも似たきり丸の声に伊助は嫌な予感を察したのか、顔に縦線を入れながらそそくさと立ち去ろうとした。 しかし乱太郎は自慢の脚力をここぞとばかりに生かし、洗濯物を持ったまま伊助の前へと回り込む。片手で洗濯物の山を持ち、もう片方で伊助の腕をがっちりと掴んだ。 伊助が口の端を引きつらせながら、乱太郎に向かってにこりと笑いかけた。 「ええっと乱太郎、何の真似かな」 がくっと諦めたようにうなだれ巻物を床へ置とす伊助を、乱太郎は笑顔のまま庭へと引きずりこむ。きり丸はやはり顔を上げずに洗濯物を伊助の腕の中へ放り込んだ。元々手際がよいと言われる伊助だから、乱太郎の意図した通りに洗濯物を干してゆく。乱太郎も部屋の中にある洗濯物をきり丸に手渡したりと、再度手伝い始めた。
乱太郎と伊助は異臭の薄まった部屋でぐったりとうつ伏せに倒れる。 きり丸はバイトのお駄賃を貰いに行くといって、乾いた分の洗濯物が入った籠を背負いながら意気揚々と出かけていった。まったく元気な奴だと皮肉交じりの言葉を呟いてから、乱太郎はゆっくりと半身を起こす。伊助も同じく、半身だけを起こした。 「あー、疲れた」 まだ乾いていない洗濯物が夕風にはたはたと揺れる。部屋の戸を全開にしたまま、二人しばらくぼんやりと風に当たりはためく布を眺めた。白い女物の小袖に夕闇が映えている。綺麗という言葉で表せないほどの、美しい色。 折角の休みは潰れてしまったけれど、この光景が見れたのは良かったのかもしれない。伊助に同意を求めると彼も微笑んだ。 「でもきり丸のバイトにつき合わされるのはもうごめんだね」 顔を見合わせ微笑む。直後、何の気まぐれか強い風が吹いて、物干し竿の一番端に干してあった白い布がふわりと飛んだ。気だるい体に鞭打って、慌てて立ち上がり庭に出ると、乱太郎は飛ばされかけた布をつかんだ。 ほっとして濡れた布をようく見ると、それは赤子のおしめであった。汚れていたのにこんなに白く綺麗になるのかと、不思議な気分でそれを眺める。 「乱太郎」 駆けてきた伊助の顔には、微笑みではなくにやにやとした笑いが浮かんでいる。何、と尋ねると、彼は妙な笑みで呟いた。 「嬉しそうだね。洗濯、好きになったんじゃない?」 力一杯否定して、乱太郎はおしめを竿にかけた。白い布が夕闇に染まる。 吹いた風に、すっかり綺麗になった布たちがはたはたと揺れた。
洗濯といえば伊助だろう! と色々間違った考えで伊助を出しました。伊助可愛くて好きです。というかは組ちゃんたち皆可愛すぎて好きです。 |