ほとんど獣道にも似た山道の途中、一人の子どもと四人の男に出会った。
 いかにもな顔をした男たちが、六、七歳程の幼子を取り囲んでいる様は、どう見ても穏やかな様子には見えない。
 おまけに二人に気づいた男たちは、いかつい顔を楽しそうに歪めながら、こちらに歩み寄ってくる。
 あーあ、ときり丸が嫌そうに息を吐いた。

「どうして毎回毎回こんなんと遭遇しちまうかねえ」 
「どうするきりちゃん」
「そりゃあもちろん逃げるに決まって」
「そーいうわけにも行かないだろ」
「おいさっきから何ごちゃごちゃ話してる」

 会話に乱入してきた声がいかつい顔に似合っていて、乱太郎は思わず苦笑してしまった。
 きり丸は面倒くさそうな顔を隠そうともせず、暢気に頬などを掻いている。
 そんな態度が気に入られるはずはない。四人のうち三人の男が周りをぐるりと取り囲む。もう一人は見張り役として子供の傍に突っ立ったままだ。
 そうして何をするかと思えば、三人は口々に勝手なことを喚き始めた。
 内容は月並みだが、無駄に大声なのだからたまらない。

「うるっせえなあ」
 
 これ見よがしに耳を押さえながら、きり丸が口をとがらす。最もな意見は血の気の多い男たちを怒らせるのに十分だった。一番背が高い熊のような男の、頑強そうな拳が飛んでくる。
 隣で、盛大なため息。
 
「ほんと、面倒くせえ」

 吐き捨てるとほぼ同時、山賊の背は地面に叩きつけられていた。
 


「顔がいかつい割には骨のねえ奴らだったな」

 二人目が倒れた後、残った山賊たちは真っ青な顔で仲間を引きずり逃げていった。お見事きりちゃん、いやあそれほどでもあるけどなんてふざけたやり取りをしながらも、乱太郎は残された子どもに目を向けた。
 
 土と垢(アカ)で汚れた着物に顔を埋めて、幼い子どもはぐすぐすとすすり泣いている。
 あやそうとしてみたが、泣きやむ気配はまったくもってない。とりあえずしゃがみこみ、背中でも擦ってやろうかと思っていると、きり丸が山賊の相手をしてやった時のようにため息を吐いた。

「行こうぜ、乱太郎」
「え、でも」
「賊はもう追っ払ったんだから一人でも大丈夫だろ。おれたちも暇じゃないんだ」
「それは……そうかもしれないけど」

 乱太郎はきり丸と子どもを交互に見やった。ひっくと大きくしゃくり上げる音がする。とても大丈夫のようには思えない。
 やっぱり放っていくのは……と呟くと、きり丸は鼻を鳴らした。

「乱太郎、甘さと優しさは似ているようで全然違うんだぜ」

 釣りあがった瞳が幼子に向けられる。

「何でこんなとこにいるのかは知らねえし、泣くのも勝手さ。だけど、自分の身を守りたいならこの場所から離れた方が懸命だぜ。ここいらは物騒だからな。現にお前みたいなぼろ服着たガキだって狙うぐらいだ」

 一気にそれだけ言うと、きり丸はやにわに歩き出した。
 幼子はしゃがみこんだまま、いまだ立ち上がろうとしない。
 行こうかどうか迷っていると、前を行く彼に名前を呼ばれた。早く来い、こんなところで足止め食らってる場合じゃないんだと鋭い声で言われて、乱太郎も渋々歩き出した。
 彼の言うとおりだ。止まっている場合ではない、のだけれど。

「振り向くなよ」

 釘を刺される。まさに後ろを振り向こうと思っていたので、何も言えない。

「今情けをかけても、甘ったれのままだったら生きてはいけねえよ。分かるだろ」

 きり丸は前方を向いたまま、すたすたと迷いなく足を進めてゆく。
 彼の言っていることは間違っていない。あのままではきっとあの子は生きていけない。
 再び賊や追いはぎに遭ったとき、自分達のようなものが通りかかるなんて幸運、度々あるわけがないのだ。
 ……うん、と頷いて、乱太郎もきり丸に並ぶべく足を速めた。

 山道をしばらく行った後、僅かに子どもの幼い足音が聞こえてきた。音はすぐに遠くなり、消えてしまったが、振り向かなくても分かった。
 涙を拭いたのかどうかは知らないが、子どもはしっかり立ち上がってこの場所に背を向けたのだ。

「大丈夫かな」
「立ち上がれたんだから大丈夫なんだろ。後は運と根性だな」

 きり丸は相変わらず前を向いたまま、獣道に似た道を淡々と歩んでゆく。
 だけれどその口調は、先程より幾分か柔らいでいるような気がした。










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ブログにあげていたのを加筆&修正したものです。
幾らなんでも話が突然すぎたので、最初の方付け加えました。
それにしてもきり丸と乱太郎の話久しぶりだなあ…ネタがあったらもっと書きたいお二人。