久しぶりに帰ってきていた弟は縁側でお茶を飲んでいた。
 足をぶらつかせながら、暮れてゆく日を見守っている。
 優作が傍に座ると、秀作は初めて気づいたようで、お兄ちゃんお疲れ様と優しく笑った。

「仕事はどうだった?」
 「いつも通りだったよ。それよりも秀作、久しぶりに帰ってきたのだから色々話を聞かせてくれないか」
 「うん、そうだね」

  それから色々な話を聞いた。大半は事務の仕事で失敗した話だったが、優作は別段何も言わず、相槌を返してゆく。

 実のところ、話を聞きたいというのはたてまえで、久しぶりに帰ってきた弟と一緒に過ごしていたいというのが本音だった。
 そういう訳だからしばらくは話――主に失敗談を笑顔で聞いていた優作だったが、ふと秀作が洩らした単語が気になった。

「雑草?」
「うん。ぼくね、学園の子に雑草のような人ですねって言われたんだ」
 
 何気ない言葉に、優作は少し眉を寄せた。

 雑草のような人というのは明らかに悪口だ。あまりいい気にはならないし、ましてや弟が言われたとなれば不愉快な気持ちにもなる。
 少々抜けているところもあるかもしれないが、秀作が生徒からそのような侮辱を受ける理由にはなりえない。

 しかし当の秀作はというと、笑顔で残りのお茶をすすっている。
 優作が戸惑った表情を浮かべると、秀作は何故か楽しそうに、

「ぼく、それが嬉しくってね」
「雑草って言われた事がか?」
「うん。ぼくさ、よく仕事で校門の周りの草むしりをするんだけど、雑草ってさあ、強いんだよ。踏まれてもすぐに立ち直るし、崩れた塀の隙間から生えてるものもあるし」

  花を咲かせている草を見たりすると思わず魅入っちゃって、吉野先生に怒られるんだけどねと秀作は頭を掻いた。

 随分楽観的だが、確かにそういう見方もできるかもしれない。
 優作にしてみれば、雑草は抜いても抜いても生えてくるしぶといものといった印象があったが、言い換えれば決してへこたれない強さを持っているということだ。

 その生徒がどういうつもりで雑草のようだと言い放ったのかは分からない。
 けれど分からないならば、良い意味に受け取ってもいいのかもしれない。

  庭に目をやると、ぽつぽつと地面に生えた雑草が映る。
 何度踏まれたか知れない植物たちの強さが夕暮れの中で輝いている。よくよく見てみなければ分からないほど僅かに。
 今まで自分は一度たりとも気に留めなかったのに、秀作はそれに気づいていたのだ。

「秀作はいい子だなあ」
「え?」
「何でもないよ。さ、話を続けてくれ」

  不思議そうに顔を向けた弟に、優作は微笑みながら話を促した。特に追求することなく、秀作はうんと頷いて口を開く。

 それから日が沈みきるまで、二人の兄弟は縁側に座っていた。








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弟が可愛くて可愛くてたまらない優作さん。