運が悪い気がする。いや、気がするだけじゃなくて、最近妙に運気が落ちている。確実に。 不運委員でもあるまいし……と、浦風藤内は重たい息を吐いた。 「いやあいい天気だなあ」 少し前をのんびりと歩いているのは同級生の次屋三之助と神崎左門だ。凄まじい方向音痴で有名であり、一時目を離すとどこへ走り去っていくか分からないという困った奴らである。 というわけで藤内は学園出発前、二人に「走らない・勝手に行動しない・常にぼくの前を歩く!」と釘をさしたのだ。後ろを歩かせないのは、振り向くと既にいなくなっていた、という事態を避けるためだった。 藤内の言葉を忠実に守っている二人は未だに迷子になっていない。何度か道を外しかけたことはあったが、その度に藤内が襟首を掴み正しい方向へと戻した。三之助はともかく、襟首を掴まれてなお間違った道へ前進しようとする左門には随分苦労したが。 (どうして折角の休日にこんな苦労してお使いに行かなけりゃならないんだ。おまけに) 「おお、今ジュンコ似の蛇が通ったぞ!」 藤内の半歩後ろで、伊賀崎孫兵の嬉々とした声が聞こえてきた。毒を持った危険な生物が大好きな孫兵は、事あるごとに色々な生物を見つけては騒いでいたのだ。 藤内は振り向いて、目を輝かせている孫兵の裾を引っ張った。 「孫兵、今はお使いの途中なんだぞ。分かってるのか」 「ああ分かってる分かってる。しかしジュンコ似の蛇は中々見かけることはできないんだ。珍しいことだとは思わないか?」 「お前全然分かってないだろ!」 引っ張られていることなど何のその、笑顔で愛蛇ジュンコの魅力について語り出す孫兵。藤内に言わせれば蛇なんて皆同じ顔に見えるのだが、それをきっぱりと言い出せるわけがない。もし間違って口に出しでもすれば、日が暮れるまでジュンコの可愛らしさについて語られてしまうだろう。 藤内は大きな溜息を吐いた。 「はあ……もういい。行くぞ、孫兵」 問答無用で彼の襟首を掴み引きずる。今日は町へのお使いなので、孫兵の愛蛇も学園においてくるしかなかった。そうでなければとても彼に触れることなどできない。 「おーいお二人さーん!」 少し先の方から左門と三之助の声が聞こえてくる。その声音がほんの少しからかいの色を含んでいて、藤内は身構えるように次の言葉を待った。 はたして二人は叫んだ。 「いちゃついてると先行っとくぞー」 「誰と誰がいちゃついているかー! っていうか勝手に先行くなっ、迷子になるだろうが」 からかうだけからかって、それぞれ別方向に歩き出す左門と三之助。怒りを通り越して泣き出したくなるのを必死で堪えて、藤内は孫兵を力一杯引っ張りながら二人の方向音痴を追いはじめた。
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