顔にはそれぞれに似合った表情があるのだととわたしは思っている。 喜怒哀楽、喜びが似合う顔もあれば、哀しみが似合う顔もある。分かりやすい例をあげるとすればあれだな、五年い組の木下先生。あの人には怒った表情が似あう。本人が気づいているかどうかは知らんが、もしかしたら気づいているかもしれない。何しろ木下先生は常に怒った表情を浮かべているしな。 魅力的、ってのが一番近い表現か。まあ厳密にいえば少し違うような気もするが、大まかに言えばそうだ。その顔に似合う表情を浮かべている人物ってのは魅力的に思えるな。 顔を観察するとき注意するのはその点だ。わざと顔にそぐわない表情をするのも面白いといえば面白いが、やはりそればかりではあまりに悪趣味。顔を変えるたびに、わたしはわたしであることを捨ててその人に一番合った表情を浮かべることを心がけている。 「言うことはそれだけかい、三郎」 雷蔵が笑顔を浮かべた。一見穏やかに見える表情だが、口調に笑顔の奥底に隠れている感情が表われている。沸々と、触れただけで爆発してしまいそうだ。下手に感情をむき出しにされるよりも怖い。 「だからだな」 「だから?」 「そろそろ機嫌を直して欲しいと思うんだが」 「へえ」 会話の最中もにっこり笑っているところがまた輪をかけて恐ろしい。確かにわたしは笑顔が似合うといったが、こういう笑顔ではなく、もっと穏やかで優しい表情だ。こんな煮えくり返る腸を必死に押し留めているような顔じゃあない。 もう少し長く、詳しく説得した方が良かったか。
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