縁側に腰掛け慣れた手つきで針を踊らせる、その様に思わず釘付けになった。覗き込んできた藤内に気づいているのかいないのか、孫兵の視線は手の中の制服にある。

「ふうん、器用なんだな」
「そうか?」

 傍に座って声をかけるとやっと顔をあげた。年相応に見える表情で藤内を見つめる。痛いような、むず痒いような、とにかくあまり慣れない感じがして、藤内は少し視線を下にずらした。
 指が細やかに動き、破れた箇所を塞いでゆく。器用か不器用かでいうと後者に天秤が傾く藤内は、その指使いを一寸羨ましいと思う。制服の補正などというのは最も苦手とするところで、十縫えば半近くは指を差す有様。というのはさすがに言い過ぎだが。

「よし、終わった」

 余った糸を切って、縫い終えた制服を軽くのばす。もうどこが破れていたのかも分からない。あまりにも見事な出来に藤内は唸った。まさか孫兵にこんな特技があろうとは。

「どうやったらそんな上手に縫えるんだ」
「簡単じゃないか、こうしてこうきてこう」

 制服を着て、空中ですいすいと縫う真似をしてみせる。
 じっと眺めてみたが自分のやり方とどこが違うのか分からない。しばらく手の動きを追っていたが、目が疲れてきたので諦めた。眉間を押さえてため息をつく、そのほんの一瞬、いつの間に寄ってきていたのだろうか、孫兵の首にいつもの毒蛇が巻きついていた。
 藤内は心持後ろへ下がった。見慣れた生き物ではあるが、近寄りたいとは思わない。
 孫兵は完全に藤内の存在を忘れてしまったようで、愛おしそうに毒蛇に頬を寄せたりしている。ここらが帰り時かな。藤内が腰を上げる、その動作から少し遅れて、血相を抱えた同級生が飛び出してきた。

「おい孫兵、お前のペットがまた脱走したぞ」
「何、本当か」

 ジュンコとの密な雰囲気を吹っ飛ばし、孫兵が深刻な表情になった。大丈夫だろうかと心配そうに呟きながらさっさと二人で駆け出してゆく。
 消えた背中と三年長屋から聞こえてくる騒ぎに、そういえば、と藤内は思い浮かべた。逃げた毒虫たちを探すのに孫兵はどんな事も厭わない。縁の下に潜ることも、地面を四つん這うことも。ましてや茂みの中を探っていれば、嫌でも制服は擦り切れ破れる。
 成程、慣れるはずだ。何しろ脱走は日常茶飯事、その度針に糸を通しているのなら。
 そんな余波すら彼は厭わない。当たり前のように器用な手つきでやってのける、藤内は先ほどの光景を思い出して静かに息をはいた。
 捜索は恐らく三年総出になるだろう。複数人の忙しげな足音を聞きながら、藤内も手伝いに向かった。