酸っぱい! といきなり叫んでいるのは久々知先輩だ。

「昔書いた文って何でこんなに酸っぱくて痒いんだっ」
「発掘したんですか」
「発掘した!」

 部室の掃除をしているとたまにこういうことがあるのだと先輩は言った。私は破れたり黄ばんだりしている原稿用紙の束をゴミ箱へ放り込んだ。そんなに大きくないゴミ箱は既にパンパンだ。
 久々知先輩は手を止めてその“酸っぱい”文の書かれた原稿用紙を捲っている。
 十ページほどあるだろうか。時折口元をおもいきり引きつらせて。そんなに恥ずかしい代物ならばわざわざ見直さないでさっさと捨てればいいのに。
 そう思っている間にも久々知先輩はうわっとかおわっとか悲鳴じみた声を上げている。

「一年の時の俺ってこんなこと考えてたのか……」

 全て読み終わった後、どこか遠い目で呟いた先輩の台詞に、私は少し興味を示した。
 久々知先輩が私と同じ歳のとき考えていたこと、その片鱗が書かれている。それは見たいような気もする。
 だけれど散々酸っぱい痒いを連呼していた先輩が見せてくれるはずもない。
 物欲しげな視線に気づいた先輩は、すぐに原稿用紙を丸めて自らの鞄に突っこんでしまった。少々意外なことに。

「捨てないんですね」
「捨てたいけど捨てられないんだ」
「私がいるから捨てないんですか?」
「そういうわけじゃなくて……」

 先輩はバツが悪そうに頭を掻いた。

「何でかな。どんなに酸っぱくても、こういうのって捨てられないんだ。」
「そういうものですか」
「少なくとも俺の場合はね」

 先輩の言うことが今一分からなかった。
 私には過去の文と呼べるほどのものがない。それ程長く物を書いているわけではないから。
 いつか分かる日はくるのだろうか。
 先輩の気持ちを知りえることはできるのだろうか。











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少しばかりブログに置いていたものです。
昔書いたものを見ると妙に酸っぱいような気持ちになるよ、ってお話。