遠く聞こえるじりじりとした蝉の鳴き声すら物悲しい。
 夕暮れの畦道を二人で歩いていた。

「一年の頃を思い出すね」
「学園長のつまんねーお使いによく駆り出されたよな」

 少し懐かしそうな顔をする。彼の横顔はもう大人びて、十の頃の面影は僅かに残すのみだ。
 それは乱太郎とて同じことだ。もう子ども特有の、丸みを帯びた輪郭ではなかった。
 二人とも、態とゆっくり歩く。地団駄をしているわけでもないのに、何だか駄々をこねている幼子のようだと思った。このまま帰途につきたくないと、乱太郎も、恐らくきり丸も思っている。
 これで最後だから。
 つまらない、暇つぶしのようなお使いは、下級生の役割だ。
 あれから五年を経て、そのような役は回ってこなくなった。
 今日の使いは本当に久しぶりで、そして、最後になるのだろう。

「三人で来たかったな」
「……ま、仕方ねえよ」

 三人でのお使いは、もうずっと前に叶わなくなっていた。あの時の帰り道も、今日のような夕暮れで、蝉の声はやはり物悲しくはなかったか。
 騒がしかったぜ、ときり丸は言った。

「あん時は、まさか最後になるなんて思わなかったから、こんな夏の日で、暑いし面倒くせえし蝉は煩せえと、おれは思っていた」
「そう、だっけ」
「少なくともおれはって話だ。最後だと分かっていたら、もう少し情緒のあること思っていられたかもな」

 冗談めかして笑っているように見えるけれど。
 終わりだと気付かずに、只々通り過ぎてしまったのは悲しいことだと、彼は分かっていた。

「かもね」

 だから乱太郎も少し笑った振りをする。
 爪先に当たった小石が転がっていった。
 どんなに駄々をこねようと、長い長い畦道もやがて抜ける時がくる。
 蝉の音も、夏の夕暮れも、いつか途絶えるのだ。