足元が妙に寒くて目を覚ました。
 だが何、どうということはない、自分の寝相で布団が足首まで捲れていただけだ。
 夜はことさら肌寒い時期のことだ。ひんやりと纏わりつく空気がたまらず、布団の裾を直そうと身を起こすと、隣の布団で寝ているはずの伊作がいないことに気づいた。
 今日は同じ時刻に寝床の中へ入ったはずだったが、はて。
 厠にでも行ったのだろうか。思ったが、すぐにそうでないことは分かった。
 窓は閉めているので月明かりは入らないが、ある程度夜目が利くので輪郭くらいなら見える。
 そのおかげだ。こちらに背を向け、文机の前に腰を落ち着けている彼の姿を闇の中に認めることができた。

「伊作」

 呼ぶと、しんとした暗闇の中で微かな衣擦れと髪の揺れる音。

「あ、もしかして起こした? 静かにしていたつもりだったんだけど」
「いや、足元が寒くてな」
「そうか。今日は随分と冷えるからな」

 灯もつけず、また上着も着ずに闇の中に座り続ける彼の言葉にしては一寸妙だった。まるで寒さを感じていないようだ。
 ……それとも、寒さより気を取られているものでもあるのか。

「夜更かしは肌と髪の艶に良くないぞ」
「……それは女の子にかける言葉じゃないのか」
「ちょっとした冗談だ」
「留三郎は真剣に冗談を言うから今一分かりにくいね」
「そうかい? だが正味な話、この寒さだ。早く布団に入らないと風邪をひくかもしれない。保健委員長が病気にかかったら他の生徒に示しがつかないだろう」
「それは言えてるね」

 言いながら、しかし伊作は動く気配がない。だけでなく、何かを迷っているかのような感じが細々とだが伝わってくる。それが何かまでは知りようもないが。
 しかし、大抵のことなら迷いなく行動する(とは言うが別に自信に溢れているというわけではなく、半ば本能、もしくは信念のようなものに基づいて行動しているということだが)伊作にしてはかなり珍しい。
 まあ六年のこの時期、色々考えることはあるのだろう。
 夜闇に溶け込み、一人静かに思い巡らせたいときも。
 だとしたら邪魔をしたか。

「じゃあおれはそろそろ眠るとするよ」

 おれは布団の中に潜りこんだ。
 もちろん足元の布団の乱れはとっくに直している。

「ああ。おやすみ留三郎」

 少しも身じろぎもした様子なく、柔らかい声だけが聞こえた。
 その声に大人しく応える前に、これだけは言っておこうかと口を開ける。

「伊作」
「ん?」
「しばらく起きているつもりなら、せめてもう少し暖かい格好をした方がいい」

 ふっと息を緩める音が届いた。

「そうだな、上着でも羽織ることにするよ」

 それがいい、と最後に言って目を閉じた。
 暖かい布団の中にいるとすぐに睡魔が襲ってくる。
 それに逆らうつもりはまったくない。
 ただただ迫り来るそれに身を任せていると、意識は徐々に薄らぎ、やがて深い淵へと落ちてゆくのを感じた。


 それだから、伊作が言葉通り上着を羽織ったどうかは定かでない。