窓越し、ぼんやりと視線を向けた先に彼は居た。光に照らされ笑う年上の同級生は相変わらず緊張感の欠片も見当たらない。同じく傍らで笑っているのは、一年は組の伊助だったか。二人で何某か立ち話をしていた。
 内容はさすがに聞き取れず、というかわざわざ聞きたいわけでもないが、くだらない事でも喋っているのだろう。どちらも笑い声はひたすらに明るい。
 まったく暇な奴らだ、と窓枠に寄りかかりながら滝夜叉丸は思う。すぐ傍の、机の上に広げられた書を眺めることもなく、以前両の瞳は談笑する彼らに向けられていた。
 あまり眺めていたら気づかれてしまうかもしれない。杞憂と呼ぶにはいささか大げさだったが、二人は呆れるくらいに鈍感で、そのような様子は微塵も見せぬ。
 気づかれるのはどうにも面倒くさいが、気づかれないのもなんだか面白くない。いっそここから飛び降りて驚かせてやろうか。珍しく悪戯心が湧き上がるが、実行に移す事はついになかった。

「あれ、おーい、滝夜叉丸ー!」

 向けられる瞳にか、それとも偶然空を振り仰いだ際にか。ようやく上方に気づいたタカ丸が、ひらひらと手を振る。隣の伊助はというと、明らかに物言いたげ、というか渋い顔をしているが、一年は組が若干失礼なのは今に始まったことではない。

「丁度良かったー、分からないところがあるから教えてくれない」
「ええっ、タカ丸さん、正気ですか! 滝夜叉丸なんかに教えてもらうなんて」
「こら一年、なんかとはなんだ、なんかとは! それに先輩と呼べといつも言っ」
「じゃあ今からそっち行くから待ってて」
「話を聞いて下さい! まだ教えるとは言ってませ」
「行こう伊助」
「しょうがないですねえ」
「ですから話を! それとさっきから甚だしく失礼だぞ伊助!」

 声も虚しく二人はあっという間に校舎の中に消えてしまった。
 まったくこれだから暇人はと頭を抑えつつ、この場に留まって待つ理由を思えば、己も人の事は言えないのである。