「トリックオアトリートォ!」
「は?」
「ってことで滝、お菓子ちょーだい」
調子のいい言葉とともにずいっと差し出された手を、滝は不可解な面持ちで見つめた。そのまま互いに沈黙。
室内に微妙な空気が流れる。ややあってタカ丸は行き場のない手を引込めた。
「くれないのお菓子?」
「いやお菓子って……何ゆえ私がタカ丸さんに?」
「今日はハロウィンだよ」
だから菓子をよこせという。滝は微かに眉根を寄せた。
宿題をやってる最中にいきなり部屋に訪ねてきて、あまりにも理不尽なことを言う。
相変わらずこの男のやることは理解しづらい。
「タカ丸さん、私そんなに暇ではないので、そういうことは他の人におねだりしてもらえませんか」
「もう大体声をかけたよ」
そう言って、シャツやズボンのポケットから、ぽろぽろと細々した菓子を取り出す。
飴玉やチョコレート、クッキーやら、よくもまあそんなに入ったものだと呆れるほど、菓子は次から次へとあふれ出してくる。
それにしても声をかけられた皆の用意の良さに驚いた。
タカ丸のことだから、予告無しに突然声をかけたのだろうに。
「というわけでお菓子ちょーだい」
「そんなことを言われても」
クリスマスやバレンタインと比べれば、今一マイナーな行事であるハロウィンなど、まったく気にもかけていなかった。
それに滝は普段からあまり菓子を食べない。特に嫌いなわけではないが、買うほど食べたいとも思わないのだ。
だからして、今ここに都合よく菓子が用意されているわけがないのである。
「菓子なんかありませんよ」
正直に言うと、途端にえええーと不満声を上げられる。
「そうすると俺は滝にイタズラしなきゃならないわけ?」
「冗談はよしてください」
「じゃあどうしようか」
どうしようも何もこのまま素直に撤収してくれればいいだけの話だ。
自室で大人しく貰った菓子でもかじってくれればどんなに助かるか。いつまでも構っていられるほどこちらも暇ではないのだから。
しかしどうにも思ったようにはならないのが世の中というもので、目の前の男はしばらく黙った後、名案を思いついたといわんばかりに顔を輝かせた。
「それなら今からコンビニ行こう」
「コンビニぃ?」
思考が読めない。滝の不審げな視線にも気づかぬ様子で、タカ丸は一人にこにこしている。
「あの、何故にいきなりコンビニへ?」
「お菓子を買いにね」
「それならどうぞお一人で」
「それじゃあ滝からお菓子貰ったことにならないよ。だから一緒に行こう。俺もあげるから滝も俺にお菓子」
「そこまでして」
どうして菓子を貰いたがるのかとか、そのギブ&テイクは果てしなく間違っているとか、というかもうそれだけあれば十分だろうとか、色々と言いたいことがありすぎて喉元でつっかえ、結局はだんまりをする羽目になる。
(この人には何を言っても無駄なのかもしれない)
世の中には理不尽なこと納得できないこと避けられない人災などがそこら辺に幾つも転がっているのだ。諦めの境地に達することが必要な時も確かにある。
付け加えるが、断じて強引さに負けたわけではない。ひょっとしたら傍目には似ているように思われるかもしれないが、それとこれは全然違うのだと滝は自分を納得させた。
「分かりましたコンビニ行きますから」
「ホント?」
「嘘は言いません」
「じゃあ早く行こう」
言うなり、タカ丸は急かすように背もたれをぐらぐら揺らした。はいはいと生返事をして、滝は立ち上がる。
ろくに意識したこともなかったハロウィンが、まさかこんなに面倒くさい事態を引き起こすなんて思ってもみなかった。
まったくとんだイベントだ。
来年はくれぐれも気をつけようと思いながら、滝はあまり重くない財布を手に取った。
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遅ればせながらハロウィンものです。
タカ丸はイベントごとに嬉々として便乗しているイメージがあります。もちろん妄想ですが。
それにしても飲食物ネタが異様に多い現パ…。
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