かちりとタブを開ける音とともに、微かなコーヒーの香りが辺りに漂う。温かそうなそれを美味しそうに飲み始める同級生を、自販機からお茶を取り出していた滝は複雑な表情で見た。 「美味しいんですか、それ」 「んー? 美味しいよ」 簡潔な答えを出した後、彼はまた缶コーヒーに口をつける。言ったとおり、とても嬉しそうな表情をするタカ丸に、納得がいかないと滝は詰め寄った。 「コーヒーなんて苦いだけの液体ではないですか」 「そこがいいんじゃないか! 鼻腔をくすぐるこの芳しい香り、そして口内を満たす苦々しい味わい……特にこんな寒い日は一層美味しく感じられるね」 いつもの暢気さとは打って変わって力説する様に、滝は少々後ずさりながらも更に食いかかった。 「砂糖が入っているならまだしも、それはブラックコーヒーでしょう」 「コーヒーはブラックに限るよ」 「そんなもの苦い……」 「だからそこがいいんだってば」 言葉を途中で遮られる。分からない子だなーと子供扱いされて、あまつさえ大きな手でぽんっと頭を叩かれた。髪が乱れない程度に、軽く。 あまりといえばあまりの扱いに、滝は小さく唇を噛んだ。同い年だとしたらとっくに張り飛ばしているところだ。けれど彼は年上。留年しているとはいえ上は上である。しかも二つも。 内心の悔しさを押し殺して、滝は手のひらの温もりに目を移した。 先ほど買ったばかりの缶は、冷たい空気を緩和させるかのような熱を放っている。その熱を逃さぬように手のひらをぎゅうと押し付けると、まるで行き場の無い感情をぶつけるような錯覚。 仕方が無いことだとは分かってはいるけれども、それでも悔しくてたまらないのだ。 小さく歯軋りして、手のひらの缶の蓋に指をかける。と、ほぼ同時に小さく息を吐く音が聞こえた。 どうやらコーヒーを飲み終わったらしい。空になった缶を軽く握りつぶしているタカ丸の、細長い五本の指は骨ばっていて大きく、自分のものとは比べるまでもなく大人びている。 「お茶、飲まないの」 「……飲みます」 滝の手元にはちらりと視線をやってから、タカ丸は缶を自販機の傍のゴミ箱に投げ入れた。少し狙いが外れたかと思いきや、缶は運良く自販機に当たって跳ね返り、多くの缶と同じように埋没する。 それだけでガキのように嬉しそうな顔をする年上の彼に、滝は苦笑することも無くお茶の缶を握りしめた。 いつの間にかぬるくなってきた缶は、冷たい手の先に熱を与えることも出来やしない。 こみ上げてくる悔しさやもどかしさに苛立って、滝はかけていたままの親指を一気に上へと押し上げた。
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