廊下を歩いていた三郎は、向こうから駆けてきた兵助の襟首を引っつかんだ。
口元を手で押さえて、顔を青白くしている彼は気持ちが悪そうで、今にも床に色々なものをぶちまけそうな。
「随分と愉快な顔をしているな。陸酔いでもしたか」
「んな、わけない……だろっ」
「すまんすまん、冗談だ。何か飲むか?」
「のっ……飲み物は、いいっ」
苦しそうに、しかしきっぱりと答える。何かを思い出したのか、顔色が益々悪くなってもはや土気色だ。体など今にも崩れ落ちそう。
この様子だからさすがに三郎も少し神妙になって、
「兵助、医務室行った方がいいんじゃないのか。何でこっちの方向に」
「厠……行こうと……思っ、て」
「ああ」
ぶちまけそうだとは思ったが本当にぶちまけるつもりだったとは。
しかしてこれはよっぽどだ。一体、兵助をここまで至らしめた原因は何だというのか。
「毒を……」
「毒?」
「あれはっ……ど、くに匹敵するほどの、威力を持って」
「毒に匹敵するほど?」
ということは毒ではないということだ。けれどもそれ以外のものでこれほどまでに彼の体力を奪うものが存在するのだろうか。大体兵助がそのようなものを安易に口に入れたということが信じられない。
いや、本人の意思とは無関係に飲まされたという可能性もある。だとしたら誰が何の目的で。
「さっ」
「さ?」
「斉藤っ、が」
「斉藤?」
斉藤といえば思い浮かぶのは四年の斉藤タカ丸だ。それ以外に斉藤という姓を持つ生徒及び教師は三郎の知りうる限りでは存在しないはず。ということは斉藤タカ丸に無理やりその「毒に匹敵するもの」を飲まされたというわけなのか。
だが妙だ。
タカ丸は年上とはいえ、腕力や諸々の技量は他の生徒に大きく劣る。
だから無理やり――例えば腕力なんかで何かを強いるといったことは難しいはずなのだ。ましてや五年生相手に。
さてはて、まったくどういうことなのか。
「三郎、お前」
兵助が少しうんざりしたような顔をする。
「面白がって、ないか……?」
「滅相もない。友人が苦しんでいるのにどうして面白がることができようか」
「う、嘘つけ……おうぐっ」
波がきたようだ。それも大きな。兵助はぐるりと背を向けて、ふらふらと厠のほうに向かっていった。
三郎も特に追いかけるようなことはなく、その場にとどまり頼りない足取りの友人の背を見送っていた。
まあ、あれほど深刻ぶってはみたが、毒でないなら心配はいらないだろう。本当にやばかったら彼も厠なぞに行かず医務室に向かっている。
それにしても何ともはや、奇妙な話だった。
続きが気になるから後で快復した兵助に訳を尋ねてみようか。
半ば、否、ほとんど面白がりながら、三郎は思ったものだ。
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お題部屋『016:料理』の番外的なお話、久々知と鉢屋です。
以前書いたお酒の話といい、五年生は吐く話が多いですね。何故か。
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